6
年末年始は、休載し、この欄は実に１ヶ月ぶり。『ウィ・ラブ・ジュリー』に至ってはなんと
３ヶ月ぶりの登場になる。まあ、ジュリーに関しては昨年秋以降ほとんど話題らしきものが
なく、書くに書けなかったというのが正直なところだが、ここにき動きが出てきた。まずは、
新春コンサート『新春価千金』の話を。(５日、渋谷公会堂)
オープニングから♪あなたに今夜はワインをふりかけ♪
♪ス・ト・リ・ッ・パ−♪♪勝手にしやがれ♪
と珍しくヒットソング３曲を続ける大サービス。ステージのベースはもちろん
♪彼は眠れない♪♪単純な永遠♪２作からのナンバー
だったが、正月ということと、今年がデビュー２５周年ということを十分意識しての演出だろう。
中盤でも♪アマポーラ♪に始まり♪時の過ぎゆくままに♪
♪ＬＯＶＥ抱きしめたい♪♪堕天使の羽音♪
♪月のギター♪と続くスローナンバーのパートがあり、とくに真ん中の
３曲を続けて聴くと、ジュリーが曲の中でも歳を重ねてきたのがよくわかって、興味深かった
(うまい構成だと感心！)
サウンド的には、ジャズマスターに５本のブラスとパーカッション、生ピアノというゲスト陣を 効果的に加え、かなりバリエーション豊か。なかでもフル編成での後半のロックナンバーはブ厚い サウンドが強烈無比でシビれた。(とくに♪晴れのちＢＬＵＥ ＢＯＹ♪が 秀逸）。完璧だった昨年のツアーと比べ、今回は余裕を感じさせる一味違うものだが、現在の充実ぶりが よくわかる好演だった。
このコンサートに加え、３月にはＡＣＴシリーズ第３弾『沢田研二ＡＣＴニーノ・ロータ』も
決定、２本の主演映画も完成するなど、話題は豊富。テレビも正月特番にチョコチョコ顔を出したほか、
懐かしのＮＨＫ『ビッグショー』が唐突に再放送された。さらにＣＤリリースのほうもタイガースの
ボックスセットが出たかと思えば、いよいよ２月から待望の旧譜ＣＤ化がスタートと実にあわただしい。
当分はネタに不自由しそうにないので、ホッと一安心といったところだ。
戻る
7
いよいよポリドール時代のアルバムのＣＤ再発がスタートする。２月２０日、３月２０日、４月
２５日の3回にわけて計２１作品がリリースされる予定で、だいたい新しいほうから古いほうへという
順番だ。２月は ♪ＴＯＫＩＯ♪(‘79) ♪ＧＳ・I love you♪
(‘80) ♪ス・ト・リ・ッ・パ−♪(‘81)
♪ミス・キャスト♪ (‘82) ♪バッド・チューニング♪ (‘80)
♪a wonderfultime♪(‘84)
♪ノン・ポリシー♪(‘81)の７作だが、はっきり言ってこの2月分が今回の
ＣＤ化の目玉、というより、これらの作品の再発こそ今回の企画の意味だと言ってもいい。
なぜなら、この時期こそジュリーのこれまでのキャリアのピークだと思うからだ(今後新たなピークが
来る可能性も十分あるが…）。
もちろん、作品のクオリティーでいえば、昨年の
♪単純な永遠♪は、これらに勝るとも劣らないし、人気の面では、ほかに
何度も、絶頂期があった。しかし、その両方が驚くほど高いレベルで共存したのはこの時期を
おいてほかにはない。賞レースの常連で、ベストテン番組にも頻繁に顔を出し、さらに
志村けんとのコントもやりながら、その一方で、これほど素晴らしいアルバムを創り出していた
のだから、これはほとんど『超人』だ。
まあ、『売れる(一等賞）』というのは、本人がどうしたこうしたというだけで実現するたぐいの
ものではないが、沢田研二というアーティストは、ほかの誰よりも、その価値を知りたがってきた
(逃げようと思えば機会ｈあいくらでもあいくらでもあった）だけに、そこを重視しないわけには
いかない。そして誰もマネのできないそんなハードなスタンスのとり方こそ、沢田研二の特異性でも
あるのだ(ライバルと呼べる存在は、まったくない。郷ひろみよ吉川晃司には、一時、期待したが
あっさり逃げられてしまった）。ただ、昔からそれを正当に評価できる人間があまりにも少ないのは
残念でならない。
あれだけいい出来だった♪単純な永遠♪(プラスαの魅力がなかったのは
確かだが…）がアルバムチャートのトップ100にも入らないというのだから、今の日本の音楽状況は
ジュリーにとってとてもいいとはいえないが、メゲずにがんばってほしいと、心から願っている。
戻る
8
３月４日にグローブ座に行ってきた。もちろん『沢田研二ＡＣＴニーノ・ロータ 夢はフェリーニ』
を見るためだ。今年で３年目になることＡＣＴシリーズは、一人の作曲家をテーマに、その作品と
ジュリーのオリジナル曲を絡めて構成された一種の音楽劇。映画音楽の大家だったニーノ・ロータと
その最良のパートナー、フェデリコ・フェリーニとの関係を軸に、現実、夢、男、女、真実、うそ、
そして人生という旅を描き出した見応え十分の内容で出来としては、こちらの予想以上のものだった。
正直な話、私は一昨年のクルト・ワイルの見ていない。♪架空のオペラ♪
以降しばらくのジュリーの活動をあまり買っていなかったこともあり、ワイルとの組み合わせは面白い
と思いながらも、不安が先に立ってつい行きそびれれしまったのだ。ただ、オリジナルアルバム＆
シングルの制作やコンサートを『光』とすると、このシリーズ(沢田研二にしかできないスタイルで
あると同時に最も沢田研二らしくない部分も持っている）はあくまで『影』。どちらも沢田研二で
あることは、間違いないが、『光』が強くなければ、なかなかくっきりとした美しい影はできない。
今回のシリーズを素晴らしいと感じたのは、♪彼は眠れない♪あたりからの
充実した『仕事』があったからこそなのだ。
でも、そんなことよりもっと確かなのは、最後に『次は映画で会おうぜ!』と言って消えたジュリー
が掛値なしにカッコよかったことである。
戻る
9
なんとあの内田裕也が東京都知事選に立候補してしまった。しかも選挙の過程を映画にする(監督 は宇崎竜童）というのだから、５０代ロッカーはなかなかしたたかだ。しかしこうなると、ジュリーが 応援に駆り出されるんじゃないかと多少不安になってくる(裕也サンに頼まれたらジュリーも断れない)。 映画に出るというのならいいが、選挙の応援などというのは、ヤメてもらいたいもの。まあ、『裕也サン』 も昔からジュリーにだけは相当気を遣っている(この２人、実に不思議な関係だと思う）ので、選挙戦 に巻きこむことはないはずだが、やはり気になる。
話は変わるが、前回、私がＡＣＴシリーズのクルト・ワイルを見ていないと書いたら、『３年のうち
では、クルト・ワイルが一番よかった』というおはがきをいただいた。もともとこのシリーズで最適の
作(曲）家でワイル(ブレヒト込みで)と思っていただけに、こうなるとなんとかもう一度ワイルで
演ってくれないものか、などと勝手に考えている。
この間の、書かなかったが、このＡＣＴシリーズは♪ミス・キャスト♪
♪女たちよ♪あたりのアルバムの延長線上に位置するもの。とくに
♪女たちよ♪は、『プレＡＣＴシリーズ』と呼んでもい作品。企画のおもしろさに内容が
今一つついてこれなかったという感じで、評価もセールスもかんばしくなかったのが残念だが、
あれはあれでジュリーらしかったと思っている。
戻る
10
ついにこの連載(のようなもの)も１０回目。最初は３回くらいのつもりだったが、意外に好評だった もので(『ＡＣＴクルト・ワイル』のテープをプレゼントしてくれた溝井さん、自作のコミックを 送ってくれた変なペンネームの伊華幻さん、どうもありがとう!）、調子にのって１０回まで来てしまったわけ。 しかし、ここまで続くんだったら、もっと体系的に『沢田研二論』でもやるんだったと多少 後悔もしている(ホントかね)。
そういえば、この号が出るのは、もう５月だから、ジュリーのニューアルバムの到着も、もうそろ
そろ。吉田建プロデュスということ以外何も知らないのだが、今回はどういうメンバーが起用
されているか楽しみなところだ。
これまでの作品でも、ジュリーの人材活用術(あるいは、登用術)はみごとなもので、陽水や
ユーミンといった、ビッグネームから、さほどメジャーではない人(その時点で)まで、まさに
臨機応変。糸井重里、売野雅勇、佐野元春、伊藤銀次、後藤次利、大沢誉志幸など(
♪ノン・ポリシー♪には、クリス・レアの曲も入っていた）、いずれもその後、大化けして
いるのだから驚きだ(まあ、ライダースの白井良明みたいに化けないのもいるけど、アレは仕方ない…)
今後も、こちらの意表をついたアーチストと組んで、いい意味で期待を裏切るような組品を創って
ほしい(これまで何度もあった)。そういうのが、またジュリーらしいのだから。
注;白井良明さんは、今では、メジャーです。（公子）